結晶粒が1µ以下のサイズを有する均一なバルク状金属系材料,すなわちBulk Nanostructured Metals(バルクナノメタル)は粒径のサブミクロン化に伴って特異な力学特性を示す.本研究では,転位源としての粒界の役割を考慮し,転位密度が極めて低い結晶粒において流れ応力が増加することを表現できる臨界分解せん断応力モデルを構築した.
本モデルを用いたFEM解析を粒径の異なるFCC多結晶に対して実施し,下図のように粒径の減少に伴う降伏応力の上昇および加工硬化率の低下を再現した.
公称応力-公称ひずみ曲線
粒径が1.2µの場合はほとんどの粒でひずみ値が0.1程度であるのに対し,粒径が0.3µおよび0.6µの場合はひずみの集中領域が見られる.また,初期の結晶方位は各粒径で同一であるが,粒径が0.3µおよび0.6µの場合の変形の局所化領域は大きく異なっている.このような変形の局所化は延性の低下に影響を与えていると考えられる.
(a) d = 0.3µ
(b) d = 0.6µ
(c) d = 1.2µ
相当塑性ひずみ分布(0.00 0.01)
原子炉の安全運用に伴う大きな課題のひとつに,照射誘起応力腐食割れが挙げられる.現状の原子炉の健全性の評価には古典的な破壊力学が適用されており,安全基準などが過大に評価されている.また,従来は,通常材料の単純なき裂進展を想定しているため,照射誘起応力腐食割れ特有の粒界型応力腐食割れといったき裂進展形態の影響は考慮されていない.本研究では,粒界型応力腐食割れの要因の1つと考えられる粒界酸化および局所変形による酸化皮膜の損傷の情報を考慮することで,粒界型応力腐食割れを表現する結晶塑性モデルを構築した.
下図は本モデルを用いた結晶塑性FEM解析および酸素反応-拡散有限差分法解析を連成して行うことによって得られた相当応力分布および粒界中の酸素濃度分布図である.図(a)から,き裂進展の初期段階から,粒界の形状や結晶方位の影響によってき裂が分岐しているのがわかる.その後き裂の進展は一旦停止するが,図(b)のように時間が経過し酸素がき裂先端から進入し始め,酸化によって粒界が腐食すると,再びき裂が進展し始める.また,き裂が進展して除荷領域が大きくなると,き裂先端付近における応力値が大きくなるため,図(c)のようにき裂の分岐が顕著に起こるようになる.
(a) t = 1.473Ms
(b) t = 2.799Ms
(c) t = 4.630Ms
0MPa 500MPa 0µol/m3 0.1µol/m3
相当応力分布および酸素濃度分布
中性子照射を受けた金属材料は降伏応力の上昇や加工硬化率の低下といった照射量に依存した特異な力学挙動を示す.本研究では,照射材料の力学挙動を表現するために,結晶塑性論における流れ応力に照射欠陥密度の情報を導入したマルチスケールモデルを構築した.
照射欠陥-結晶塑性FEM解析モデルは銅単結晶であり,上下端に引張変形を付与した.下図は非照射材料および照射材料を想定し,初期照射欠陥密度を変化させた場合のFEM解析によって得られたせん断応力-せん断ひずみ曲線図である.照射欠陥密度の上昇に伴って,降伏応力の上昇および加工硬化率の低下が表現されている.照射欠陥密度の高い材料ほど最大荷重点におけるせん断ひずみの値が低いことから,照射欠陥の存在およびその消滅が延性の低下に影響を与えていることが示唆される.
せん断応力-せん断ひずみ線図